・・・・
『今日はすまぬな。急に邪魔して』
『いいのよ、 だもの。久しぶりに会えて私も嬉しいから』
何・・・?聞こえない・・・
『・・・やはり、やるのか?人と妖が共に在る世界を』
『決めてしまったから。それが今、私が叶えなければならない願いだと思うの』
『頼むから、無茶だけはしないでくれ。昔から は一人で抱え込むから心配じゃ・・・』
『大丈夫よ。ありがとう、 』
・・・・頭が・・・・痛い・・・・。
『・・・・・・ 』
なんて、言ってるの?
ねえ・・・・。教えて・・・・・
私は、
誰?
蝶姫はその夜、うなされていた。そして、ゆっくり目を開ける。
その表情はいつもの仲間たちに向ける顔でも、妹にしか見せない優しい顔でもない。
ただただ辛いだけ。なぜそう感じるのかも分からない。
頭を押さえながら、蝶姫は寝ている妹を起こさないようにゆっくり起き上がり部屋を出て行った。
向かった先は水浴び場。黒い水浴び場とは別に創った、落ち着きたい時に来る場所。
ゆっくり冷たい水に浸かる。
そして、水の上で仰向けになり、目を閉じる。
しばらく、そんな静かな時間が流れた。
そして、何かの気配を感じて閉じていた目を開ける。
「・・・・何の用だ・・・。」
「なんじゃ、燐は一緒ではないのか?珍しいの」
「頭を冷やしにここにきただけ…。用が済んだらすぐに戻る」
九尾の狐だった。どこからともなく現れては、どこからともなく消えている。
蝶姫は不思議だった。一体どこからこの世界に入り込んでいるのか。なぜ、何度も自分の前に現れるのかが。
「何。少し、様子が気になっての」
「・・・・」
「この時間だから寝ていると思っておったが・・・。どうかしたのか?」
「・・・・お前には関係ない」
「顔色が悪いのう。何かあったのか?」
「・・・燐がお前に気づく前にここから出て行ったほうが身のためよ」
蝶姫の声にはいつもの元気はない。それでも、強がっている姫を見て狐は少し悲しそうな目をしていた。
狐は水浴びしている姫に近づく。そして姫に目線を合わせるようにその場にしゃがみ込む。
その行動に警戒したのか、姫はゆっくりと起き上がる。
「・・・」
「安心せい。何もせん。どうも、様子がおかしいのう。いつものお主はどこへ行ったのじゃ?」
そう言うと狐は姫の頬に手を当てる。
その時、姫の中で戸惑いが生じる。自分は知らないはずの記憶が流れてくるからだ
*
*
*
『妾はそろそろ戻る。世話になった』
『うん。気を付けてね、衣絽羽』
『無茶はせんようにな。すぐに一人で悩むから・・・』
『分かってます。心配してくれてありがとう、お狐様』
『ではな。また機会があればここに来る』
『じゃあね』
『・・・・ 』
『うん?何?』
『・・・・・・・・・・・・なんでもない』
・・・・・違う。私は、こんなの知らない。
私は知らない。私の記憶じゃない。私は・・・・
「・・・・蝶姫?」
「い、ろ・・・・は・・・・」
蝶姫が九尾の狐の名を口にした瞬間、少し驚いた表情をする。
そして、恐る恐る聞く
「・・・・そなた・・・。まさか・・・・」
「・・・・わ、わたし・・・・・わた、し・・・は・・・・・ッ」
その時、この静寂を邪魔するかのように鋭い刃が放たれた。衣絽羽と蝶姫を引き裂くように。
「またお前か!お姉様から離れろ!!」
「・・・・少し話をすることもできぬのか・・・・?なぜお主はそんなに妾を嫌う」
「黙れッ!!!」
今度は燐の周りから炎が立ち昇る。
その炎は狐を取り囲もうとする。
衣絽羽は片目を閉じ、金色の瞳を輝かせるとそれを跳ね返す
それに燐は怯んだ。
「・・・・術は見事じゃ。じゃが、この程度では妾を捉えることはできぬぞ」
その間も、蝶姫はまるで人間の少女に戻ったかのような無垢な瞳で九尾の狐だけを見つめていた。
何かを言いたげな瞳で。
それを見た衣絽羽は、悲しそうに顔を姫に向けて言った
「すまぬ・・・・。まだ、お主と話すことはできぬようじゃ。 、この名が届かぬ限りは」
「あ・・・・あ・・・・い、いろは・・・・・」
「必ず、助け出す。また会いに来る。それまで、待っててくれ」
そういうと、衣絽羽は白と黒が混ざり合ったような境界を開く。
ゆっくりとそれに近づき、亀裂の中へ吸い込まれる。そして、消えた
消える間際に、姫は手を伸ばして叫んだ
「ま、待って・・・・!衣絽羽・・・・!
待って・・・・わたし、言いたいことが・・・・」
そういいながら最後には眠ってしまった。
燐は姉を呼びながら、眠ってしまった姉を抱きかかえる。
「・・・・なんで、あいつの名前を呼ぶの?お姉様・・・・」
つづく......
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