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第167話 蝶とオキツネサマ終 
狐は愛する者を想う。
一人の優しき陰陽師との出会い。鏡との出会い。

蝶の願いは成就する。




都に陰陽師がやってきた。
上皇がおわします城に、強力な妖怪がいるという噂を聞きつけてのことだった。

衣絽羽は、今までばれないように過ごしてきたつもりだった。
なぜバレたのか分からなかったのだ。


陰陽師は二人やってきた。
安倍清明という者と、銀霍と名乗る陰陽師。


「なんだお前らは!」
「…ここに、妖怪がいるのではないかと思い訪ねてきました。…後ろにいますね?」

清明はどこにいるのかも御見通しだった。
そして、姿を見つけると

「……これは参った。とてもお美しい妖怪だったようだ」
「……」

「彼女にだけは手を出すな!」
「上皇様。貴方の身に降りかかっている病の正体はそこにいる女性なのです。それでも、この女性をかばうのですか?」
「私が心から愛し、私が自ら選んだ女だ。正体が妖怪だろうと関係なかろう!」

そんな言葉に、衣絽羽は心揺れてしまった。
もうこの陰陽師に滅されることを覚悟して、逃げようとはしなかった。
だが、逃げろと言って背中を押したのは上皇だった。

「そなたには、生きててほしい」

その言葉と構図に、あの時男どもに追われ仲間たちがやられた光景が思い起こされた。
だが不思議と憎しみは沸かなかった。

『生きて』

その言葉に、おキツネサマは自然と体が動いた。
物凄い速さで城から抜け出し、キツネの姿になり都から出て行った


「…狐の妖怪か。厄介だな」
「――清明はん。ここはうちに任してくれんかいな?」
「構わないが…。何か、策はあるのか?あの妖怪は手強いぞ」
「いや、なーに。少し気になるんや」






衣絽羽は、どこまでもどこまでも走り抜けた。
やがて、一つの洞窟を見つけると結界を張り籠った。


数日間ずっと、衣絽羽は身を丸め目を閉じていた。
瞼の裏に浮かぶのは「紫栞」の姿。

紫栞を想えば想うほど、涙が溢れ止まらない。
だが、もう疲れ果ててしまっていた

――このまま、消えてしまえば…


そんなことを思い起こしていた。



もうすぐ、洞窟に籠って5日が経とうとしたとき。
陰陽師が一人、この場所にやってきた。

それは銀霍と名乗った、京都弁の陰陽師だった
易々と衣絽羽が張った結界を通り抜け、洞窟の中へ入ってきた。

身を丸めながら、眠っている狐に話しかける

「……オキツネはん。あんさん、ここで一人消えるつもりかいな?」

話しかけられ、目を開ける。
もう生気などなかった。とても疲れ果ててどうなってもいいといった目が見える

「内側から妖気を発して、人間を死に至らしめるほどの妖気を持ったあんさんが。なんでそんなに悲しそうな顔をしとるんや?」
「…悲しい…顔…?」
「ここにはいない誰かを見つめているようや。けど、その人はもういやへんから諦めてるのとちゃう?」
「……そう、じゃな…。どれだけ願っても、もう妾の願いは叶わぬ――」
「せやからって、諦めるんかいな」

衣絽羽はもう何も言わなかった。
銀霍は、懐から鏡を取り出した。

始めてみる物に、衣絽羽は興味津々だった

「…なんじゃ、それは…?」
「……これはな、相手の心や想いを写し取る鏡や。この鏡があんさんを心配しとるで?」
「鏡が…妾を…?」

そういうと、その鏡は光を帯びやがて人の形を成した。
黒髪に、紅い瞳。
綺麗な着物姿の、子供だった

その子供は大きな鏡を抱えていた。
そしてそれを衣絽羽へ向ける

そこに映し出されたのは、紫栞の姿。
映像が流れ始め、衣絽羽は次第に鏡へ手を伸ばし。自然と紫栞の頬へ行きつく。
映像が消えると衣絽羽はうなだれてしまった。

「……あなたの想う人はまだ、生きている」

子供が言った言葉に信じられず顔を上げる。
子供は次に、衣絽羽の頭に着飾られている蝶の簪を指さす。

「その簪。まだ妖力が生きてる。だからまだ諦めるには早い」

そう言われ、簪に少し触れてみる。
確かに、衣絽羽を守るような包み込んでくれるような温かい波動を感じ取った。

「ああそうか。せやったんか。あんさんから、あんさんのとは違う妖気を感じると思っとったが。正体はその簪かいな」
「妖力が籠ってるから。衰えてもいない。だからまだその簪を造った人はまだ生きてるよ」

そう言われ、衣絽羽はその簪を頭から取り改めて見つめる。
綺麗な金色の簪。
まだ紫栞の妖力は子供が言う通りに『生きている』

とても愛おしそうに、簪を持ちながら抱きしめた
そして同時に、衣絽羽にまた生きる気力が戻ってきていた。

「…生きているのならば、まだここで消えるわけには行かぬな…」

子供は微笑んでいた。
そんな光景を見た銀霍は

「うちは、あんさんを滅しようなんてちっとも思っとらんよ。むしろ、助けたい思とる」
「…陰陽師は、皆。妖を嫌っているのではないのか?」
「それは、何も知ろうとせず『悪』と決めつける阿呆や。あんさんは『悪』やない。…まだやり直せるはずや」


銀霍は衣絽羽に、大切にしていた鏡を渡した。

「鏡汐のこと頼むわ。この子はうちのような奴のところにおるわけにはいかんのや」
「…銀霍」
「いつかバレて、滅されるのが落ちや。そんなことにはならんといてほしいっちゅう、うちの我儘や」

そういうと、銀霍は去って行った。


鏡汐と名乗る雲外鏡は、衣絽羽が持ち主になった。
持ち主が変わり、鏡汐の姿も変わった。

白い髪に、青い瞳へと。変化したのだった


「…付喪神も、大変じゃの」
「うん。だから、大切に使ってね衣絽羽」





衣絽羽はそれから、移り行く景色。時代を見ながら人々の中へ紛れていった。
次第に、服装も変わり。時計ができて時間と言う概念が出来上がる。

町並みもどんどん様変わりしていく。
言葉遣いも変わっていく。


そんな変化を見ながら、少しだけ。
寂しいと思う衣絽羽だった。







紫栞を探して、1万年。
長すぎる時を生きた九尾の妖狐。


たくさんの人々を見てきた。
たくさんの物を見てきた。



樹里との出会いも忘れてはいない。


「オキツネサマ。一緒にお茶でもいかがです?」


樹里が「紫栞との縁の糸は切れていない」と言った時。
とても安堵し、少しだけ嬉しくなったのを憶えている。









紫栞が、衣絽羽の顔を覗き込んでいる。
衣絽羽の頬を優しく包み込むように手を当てる。

そして、そっと。唇と唇が重なりあう。
その気配で、衣絽羽は目を覚ました。

しばらくそのまま。口づけを交わし合う。
顔を見つめ合う。

「――紫栞…」
「…おはよう、衣絽羽」

優しい笑顔。それだけで、衣絽羽は安心していた。

「唸ってたから、ちょっと心配で…。何か夢でもみてた?」
「……そうな…。昔の…、大昔の夢じゃった」

衣絽羽は起き上がると、紫栞へもたれ掛かりそのまま押し倒した。

(…紫栞の匂い…。久しぶりじゃ…)

「もう、衣絽羽ったら。猫みたいよ」
「妾は狐じゃ」

衣絽羽は紫栞へ頬ずりをしていた。とても嬉しそうに。

紫栞は、ふわふわの九本の尻尾を見て。
気付けばモフモフと。触っていた。
尻尾を触ると、衣絽羽はさらに顔を赤くしてとても気持ちよさそうな顔をしている

「……尻尾も立派になって。幼い頃の衣絽羽がとても懐かしいわ」
「紫栞も。綺麗になったのう…、妖をも魅了する蝶じゃな」

そう言われ、紫栞は顔を赤くする

「…もう、衣絽羽ったら」
「事実であろう?…現に、妾はお主に惚れておる」

衣絽羽の正直な告白に、紫栞はさらに顔を赤くし目を潤わせる。
その様子はとても可愛らしい。

「……口づけ。してくれたの、嬉しかった…。ずっと、――ずっと待ってたから」
「…気づいておったのか?」

衣絽羽は驚いていた。
あの日、口づけをしようとして直前でやめたことを知られていたことに。

「――私も、衣絽羽が好きだから…」

紫栞からの告白に衣絽羽は顔を赤らめる。
紫栞の綺麗な身体に、姿に、顔に。目がいってしまう。

本当に、魅了されてしまうほどに。

紫栞は顔を赤くしながら、仰向けに寝ている。
目を閉じながら、衣絽羽を待っているかのように見える

「――もう、我慢できぬ…ッ」

衣絽羽は紫栞の首に顔を埋める。
そしてペロっと。首筋を舐めた。
甘い声と吐息が聴こえてくる。

身体に口づけをするように、愛おしい者へ甘えるように。
衣絽羽は紫栞と身体を重ね合った。

「…なぜ嫌がらぬ。これでは、妾…止まらなくなってしまう…っ」
「いいの。…これが、私の…。――私の、願いだから」

その言葉に応えるように、唇同士が重なり合う。
紫栞の腕が、衣絽羽を包み込む。

(……やっと願いが叶った。衣絽羽と2人きりで、ずっとこのままでいたいっていう。私の、願いが――)

「もう、二度と離さぬ。ずっと、…ずっと一緒じゃ」
「うん…」







巫が、キツネと蝶が住まう家を木々の枝の上で座りながら見守っていた。

「蝶と狐。とても不思議な組み合わせな、不思議なお二方。ふふ、見ていてとても微笑ましいです」

――人に裏切られ、絶望した蝶。
かつて人間だったからこそ。人々の願いを叶えるために捧げられてしまった可哀想な贄巫女。
だからこそ彼女は蝶となった。

願いを受けて生を終えた故に。


「……ワタクシもまだまだ、生きなければならないようです。この世を、見守り続けるためにも」


おわり
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THEME | GENRE 小説・文学 |
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